ゲーム・エクササイズ

インプロゲームとは

インプロゲームとは、ある程度決まったやり方(遊び方)やルール、条件を手がかりに、その場で相手や状況に反応しながら行うゲームやエクササイズの総称です。

即興劇(インプロ)のワークショップでインプロゲームを扱う場合は、たとえば一人ずつ言葉をつないで物語をつくる、相手の動きを受け取って同じように動く、決められた条件の中で短い場面をつくる、といった形で行われます。

やり方やルールが決まっていても、そこで起きることまでは決まっていません。

同じゲームでも、誰とやるか、その日の状態、場所や状況によって、出てくる言葉や動き、関係は変わります。ある程度の遊び方があるからこそ、その中で起きる違いを味わえるのも、インプロゲームの特徴の一つです。

日本インプロアーツでは、インプロゲームを、何かを身につけるための練習としてだけでなく、まず遊びとして楽しめるものとして大切にしています。

初めてインプロに触れる人が、ゲームを通してインプロに親しみ、自分なりに楽しめるところや興味を持てるところを見つけていく。インプロゲームには、そんな入口としての役割もあります。

「インプロゲーム」が指すものは、場所や系譜によって少しずつ違う

「インプロゲーム」は、かなり幅のある言葉です。団体や地域、学んできた系譜によって、何をインプロゲームに含めるかは少しずつ違います。

ヴァイオラ・スポーリン(Viola Spolin)が体系化したシアターゲーム(Theater Games)も、その中でよく扱われます。キース・ジョンストン(Keith Johnstone)が俳優や作家との仕事から発展させたゲームやエクササイズもあります。

シカゴでは、スポーリンからポール・シルズ(Paul Sills)、Compass Players、The Second Cityへ続く流れの中で即興ゲームが使われ、デル・クローズ(Del Close)やImprovOlympic(現在のiO)へつながる実践の中では、ゲームやエクササイズと舞台上の即興がさらに別の方向へ発展していきました。

ほかにも、稽古の中で生まれたもの、既存のゲームが変化したもの、観客の前で遊ぶためにつくられたものなどがあります。現在「インプロゲーム」と呼ばれているものの中には、こうした異なる背景や目的を持つものが一緒に含まれています。

日本インプロアーツでは、「インプロゲーム」という言葉を一つの狭い定義に固定するよりも、分かる範囲で、そのゲームがどこから来たのか、どんな目的で使われてきたのか、現在はどのように遊ばれているのかも見ながら扱います。

インプロゲームの実演動画を見てみる

さまざまなインプロゲームやエクササイズを、実際の動画で見ることができます。リンク先では、それぞれのゲームのやり方やポイントとあわせて紹介しています。

  1. 私は木です
  2. エア綱引き(ペア)
  3. 私たちは〜です。はい、そして…
  4. Yes, Let’s
  5. ティピカルストーリー

インプロゲームの実演動画をもっと見る →

実際のゲームをいくつか見ると、「インプロゲーム」という言葉が、単に一種類の遊びを指しているわけではないことも分かりやすくなります。

言葉を使うものもあれば、身体や空間を使うものもあります。二人で行うもの、グループで行うもの、短いシーンに近いもの、観客と一緒に遊ぶものもあります。

シアターゲームとは?――スポーリンの方法

ヴァイオラ・スポーリンのシアターゲームは、現在のインプロゲームを考えるうえで重要な源流の一つです。

スポーリンは、演出や指導の中で出会った具体的な課題に取り組むためにゲームをつくっていきました。

ある課題に出会えば、その課題を実際に体験しながら探れるゲームを考える。別の課題が出てくれば、また別のゲームをつくる。スポーリン自身も、ゲームは必要から生まれたと語っています。

スポーリンのゲームでは、参加者が何に取り組むのかという課題(Problem)と、何に注意を向けるのかという焦点(Focus)が大切にされます。参加者はゲームの中で実際にやってみながら、その場で起きることを経験し、自分たちで発見していきます。

『Improvisation for the Theater』では、各エクササイズが、導入、注意を向ける一点(Point of Concentration)、実践中の働きかけ(Side Coaching)、例、評価・振り返り(Evaluation)、観察のポイント(Points of Observation)という項目で整理されています。

これはシアターゲームを名乗るための六つの条件という意味ではなく、スポーリンがゲームを教え、観察し、振り返る方法を知る手がかりになります。

日本インプロアーツでは、まずスポーリン自身の著作や実践に確認できるゲームをシアターゲームの中心として扱います。その後に生まれた変形や新しいゲームについては、スポーリンのどの考え方や方法が受け継がれているのかを見ながら考えます。

シカゴでは、ゲームから舞台へ広がっていった

スポーリンの方法は、息子のポール・シルズを通してシカゴの演劇実践へ広がりました。

シルズはPlaywrights Theatre ClubやCompass Playersでスポーリンのゲームを使い、即興を舞台づくりへつないでいきます。1959年に始まったThe Second Cityも、この流れの中にあります。

デル・クローズも、このシカゴの流れの中で長く活動しました。The Second Cityなどで仕事をしながら、即興を台本やスケッチをつくるための手段だけで終わらせず、それ自体を観客に見せる芸術として発展させようとしました。

Haroldは1967年にThe Committeeで初演され、その後、クローズはチャーナ・ハルパーン(Charna Halpern)らとImprovOlympicでHaroldを発展させていきます。

ゲームやエクササイズで経験したことを、人物、関係、場面、アンサンブル、作品全体へどうつなげるか。シカゴのロングフォームでは、そうした方向へインプロが広がっていきました。

ここは一本の単純な継承図ではありません。人が劇場やカンパニーを行き来し、考え方や方法も変化しながら、スポーリンのゲーム文化と、その後のシカゴの即興演劇が重なり合って発展してきました。

ジョンストンは、別の場所からゲームを発展させた

キース・ジョンストンは、シカゴとは別の文脈からゲームやエクササイズを発展させました。

『IMPRO』では、Royal Court Theatreで、自発性や物語をつくる力を育てるために、さまざまな即興の技法やエクササイズが生まれていったことが語られています。

それらは俳優のスタジオや学校での実演へ広がり、やがてTheatre Machineの活動へつながっていきました。

Theatresports™は、ジョンストンがプロレスを観たときの観客の熱量に着想を得た形式です。俳優同士が競い合うというアイデアは、しばらく演技クラスのゲームとして使われた後、カナダで観客の前に出されるようになりました。

その後もGorilla Theatre™やMaestro Impro™など、別の仕組みを持つ上演形式がつくられています。

ゲームは、人から人へ伝わる中で変わっていく

インプロが世界へ広がるにつれて、ゲームも人から人へ伝わってきました。同じ名前でも、団体や地域によってルールや遊び方が少し違うことがあります。逆に、よく似たゲームが別の名前で伝わっていることもあります。

実践の現場では、以前に体験したゲームを記憶を頼りに再現したり、その場に合うように変えたり、稽古の中で生まれた遊びが何度も繰り返されるうちに一つのゲームとして定着したりすることもあります。

また、もともとの演劇的な課題や訓練の目的から離れ、「このゲームをやると場が盛り上がる」「観客と共有しやすい」といった理由で独自に広がっていくこともあると、日本インプロアーツでは捉えています。

私たちは、こうした変化そのものを否定せず、分かる範囲で源流や出典、名前の違い、現在の使われ方を確認します。由来がはっきりしないゲームを、特定の誰かが作ったものとして決めつけないことも大切にしています。

Game of the Sceneという、別の意味の「Game」

シカゴ系のインプロでは、特にロングフォームの文脈で「Game of the Scene」という言葉がよく使われます。

これは、あらかじめやり方やルールが決まっている個別のインプロゲームではなく、シーンの中に生まれた特徴的なパターンや関係、反応の論理を見つけ、それを発展させていく考え方です。

ここでは、同じ「Game」という言葉でも、インプロゲームとは別の意味で使われることがある、とだけ押さえます。Game of the Sceneそのものの歴史や考え方は、別の記事で詳しく扱います。

同じゲームでも、使い方は一つではない

一つのゲームの中では、いろいろなことが同時に起こります。

相手の言葉や身体の変化を受け取る、自分から働きかける、相手の反応から影響を受ける、身体や空間を使う、人物や関係、場面をつくる。こうしたことが重なりながら進むゲームもあります。

また、同じゲームでも、誰と行うのか、どのくらい経験がある人なのか、何を目的にするのか、何に注意を向けるのかによって、見えてくるものは変わります。

あるときは相手の小さな変化をよく見ることが中心になり、別のときは人物同士の関係や物語の展開を探ることが中心になるかもしれません。

そのため日本インプロアーツでは、「このゲームはリスニング用」「このゲームは創造性用」というように、一つのゲームを一つの目的だけに固定して整理することを、今のところ優先していません。今後、原典、書籍、動画、実践資料がさらに蓄積した段階で、必要なら複数の観点から探せる整理を考えます。

日本インプロアーツは、まず遊びとして届ける

日本インプロアーツは、インプロを日本でもっと広く知ってもらい、実際に触れてもらうことを大切にしています。インプロゲームは、その入口の一つです。

私たちは、インプロゲームを、まず遊びとして楽しめるものとして届けたいと考えています。参加する人それぞれが、自分なりに楽しめるところや興味を持てるところを見つける。その体験自体に価値を置いています。

ゲームの中で起きる経験は、舞台の外にもつながります。相手をよく見る、何かを一緒につくる、思いついたことを試す、予想していなかった変化に応じる。こうした経験は、日常や教育、仕事、組織など、さまざまな場面と接点を持ちます。

舞台芸術としてインプロを続ける人には、ゲームの中で経験したことを、人物、関係、シーン、作品全体へつなげ、表現や判断をアーツ(技芸)として深めていく道があります。

教育、仕事、組織、地域活動などで使う応用インプロ(Applied Improvisation)では、参加する人や組織が何を求めているのかに合わせて、ゲームの選び方や扱い方、何に注意を向けるかを変えていきます。

舞台で高度な即興を目指すこととは別に、その場の目的に合った経験や学びにつながるようにゲームを扱います。

日本インプロアーツでは、インプロゲームを一つの決まった使い方に当てはめません。まずは遊びとして出会える入口として大切にしながら、その先では、目の前の人や場、目的に合わせて使うツールとして扱います。

関連ページ

主な参考資料

  • Viola Spolin, Improvisation for the Theater.
  • Viola Spolin公式サイト Biography / Philosophy.
  • Keith Johnstone, IMPRO: Improvisation and the Theatre.
  • Keith Johnstone公式サイト Biography / Formats.
  • The Second City公式 History / Viola Spolin / Paul Sills.
  • Kim “Howard” Johnson, The Funniest One in the Room: The Lives and Legends of Del Close.
  • Charna Halpern, Del Close, Kim “Howard” Johnson, Truth in Comedy.
  • The Upright Citizens Brigade Comedy Improvisation Manual.