日本インプロアーツでは、その中の一つだけを学ぶのではなく、ヴァイオラ・スポーリン、デル・クローズ、キース・ジョンストンなど、現代インプロの主要な流れを横断しながら、実際に身体を動かし、人と関わり、さまざまな実践を経験しながら探究していきます。
大地・海原・天空という三つの道は、この三人を一対一で当てはめた分類ではありません。それぞれに強く参照する実践はありながらも、複数の源流やその後の実践を行き来しながら、学ぶための領域として編んでいます。
その広い世界をどこから、どのように歩いていくのかを示すのが、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)です。
このページでは、その全体地図を見渡します。どんな考え方が旅を支え、どこから冒険が始まり、どんな道や領域が広がっているのか。まずここで全体像をつかみ、気になる場所が見つかったら、それぞれの詳細ページへ進んでみてください。
インプロの世界を冒険するためのロードマップ
アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)は、異なる源流や実践が何を大切にしてきたのかを知り、それぞれを実際に経験しながら、そのつながりや違いを確かめ、自分自身の身体や表現、人との関わりの中で探究を深めていくためのロードマップです。
このロードマップでは、インプロの世界を歩く一人ひとりを「冒険者」と呼びます。冒険の入口には「プレイフルネスの種火」と「冒険の広場」があり、そこから三つの主要な道の中で最初に進む「大地のインプロ」へ入ります。大地で空間や身体の感覚を育みながら、「海原のインプロ」や「天空のインプロ」へ進み、必要に応じてまた大地へ戻る。三つの道を行き来しながら、それぞれの探究を深めていきます。
三つの道の周囲には、好奇心・探究心、演技術・演出論、脚本理論という三つの「外郭領域」があります。さらにその先には、表現形式をさらに探究する「未開の領域」と、まだ見ぬ表現の可能性を探究する「未踏の領域」が広がっています。
なぜ「アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)」なのか
キース・ジョンストンは『Impro: Improvisation and the Theatre』p.82で、次のように書いています。
「Those who say ‘Yes’ are rewarded by the adventures they have. Those who say ‘No’ are rewarded by the safety they attain.」
「Yesを言う人は冒険によって、Noを言う人は安全によって報われる」という言葉です。
インプロでは、相手やその場から生まれたものをYesとして受け取り、それを使って次へ進むことで、自分一人では思いつかなかった場所へ、仲間と一緒に進んでいくことがあります。相手が出してくれたものによって自分が思い描いていたことも変わり、自分が返したものによって相手も変わり、その往復から、最初には誰も考えていなかった場面や関係が生まれていく。そうした「Yesを重ねながら冒険していく」という考えが、Adventurousという言葉の着想の一つになっています。
もう一つの「Improad」は、improvとroadを組み合わせた造語です。roadは「道」。ここには、日本の文化にある「道」という考え方も重ねています。
何かを身につけた後も、実践し、振り返り、また歩き、以前通った場所へ戻ることもある。そのたびに同じ景色が少し違って見え、技術や感覚が深まっていく。インプロも、そのように歩み続ける「道」として味わっていきたい。そこからImproadに「即興道」という意味を込めています。
この二つを合わせたのが、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)です。
この冒険のロードマップは、どのように編まれてきたのか
このロードマップは、長年にわたる稽古、公演、ワークショップと、関連する書籍や映像、異なる実践との比較を往復する中から編まれてきました。異なる流れの違いを消さず、考え方や技法が何のために生まれ、どのような条件で働くのかを確かめながら、学ぶ人が実際に経験できる道筋として整理しています。
その探究方法や、技法を固定的なルールではなく使えるアーツ(技芸)として捉える考え方については、「広大なインプロの世界を深く探究し、編む。」で詳しく紹介しています。
ロードマップの成り立ちと、日本インプロアーツの実践・探究を詳しく読む →
この冒険を支える「星を見るインプロ」
日本インプロアーツがアドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)を実践していく根底には、私たちが「星を見るインプロ」と呼んでいる視点があります。
同じ状況にいても、どこに目を向けるかによって、見えてくるものは変わります。日本インプロアーツでは、その場ですでに生まれている良さや可能性、次につながる種へ意識を向けることを大切にしています。その視点を「星を見るインプロ」と呼んでいます。
詳しく読む
一人ひとりの中には、好奇心や遊び心、人とつながろうとする力、その人らしい表現や反応など、さまざまなものがあります。日本インプロアーツでは、その人がもともと持っている良さや可能性を、「本来の良さ(Good Nature)」という考え方でも捉えています。本来の良さは、誰かから与えられて身につけるものではなく、人や出来事との関わりの中でさまざまな形で表れ、磨かれ、豊かになっていくものです。
この視点は、人や組織の中にすでにある強みや可能性に目を向け、そこから望む未来や次の可能性を探っていくアプリシエイティブ・インクワイアリー(Appreciative Inquiry)とも接点があります。
「星を見る」視点は、プレイフルネスの種火から、冒険の広場、大地、海原、天空、そしてその先の探究まで、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)全体を通して大切にしていきます。
星を見るインプロと、Co-Playful Yes, And + C’s™を詳しく見る →
共創を育む姿勢と循環|Co-Playful Yes, And + C’s™
日本インプロアーツが、「星を見る」視点とともに、インプロに取り組むうえで大切にしているのが、Co-Playful Yes, And + C’s™(コプレイフル・イエス・アンド・シーズ)です。
その中心にあるのは、Yes, Andです。相手やその場から生まれたものを受け取り、それによって自分も影響を受けながら、自分からも新しいものを返していく。相手が出してくれたものによって、自分が思い描いていたことも変わり、自分が返したものによって相手も変わる。そうした影響の往復から、一人ではつくれなかった場面や関係が生まれていきます。
日本インプロアーツでは、このYes, Andを、Co-Playfulという姿勢とともに大切にしています。Co-Playfulは、自分の遊び心を持ちながら、相手と一緒にその場で起きていることを面白がり、ともに遊んでいく姿勢です。一人ひとりのPlayfulnessを持ち寄り、互いの表現や反応に影響を受けながら遊ぶことで、一人の遊び心が、人とともに遊ぶCo-Playfulへとひらいていきます。
詳しく読む
こうしたCo-PlayfulなYes, Andの中では、次のような働きが生まれます。互いに場へ何かを加え、貢献し合うこと(Contribute)。人や表現がつながること(Connect)。一緒に力を合わせること(Cooperate)。そこから、これまでとは違うことへ踏み出すこと(Challenge)や、相手や出来事から影響を受けて変わること(Change)が生まれ、それまでにはなかったものを一緒につくること(Create)へとつながっていきます。
日本インプロアーツでは、この六つのCで始まる働きを「C’s(シーズ)」と呼びます。これらは一方向に順番どおり進む段階ではありません。貢献することが新しいつながりを生み、つながったことで挑戦できることが増え、その挑戦によって人や関係が変わり、そこから新しいものが生まれる。その新しく生まれたものが、また次の貢献やつながりのきっかけになります。
「シーズ」という響きには、seeds、つまり「種」という意味も重ねています。人と人との間に生まれた小さなものが、次の変化や創造へ育っていく。その循環を表す言葉でもあります。
Co-PlayfulなYes, Andという姿勢と関わり方、その中で働くC’sの循環。この二つを合わせて、日本インプロアーツでは「共創を育む姿勢と循環」として捉えています。
この姿勢と循環は、冒険の広場から、その後の大地、海原、天空、さらにその先のさまざまな実践まで、旅を通して大切にしていきます。
図解|Co-Playful Yes, And + C’s™ →
共創を育む姿勢:Co-Playful Yes, And
C’sの三つのまとまり:
【基盤】Contribute/Connect/Cooperate
【発展】Challenge/Change
【創造】Create
※固定的な順番ではなく、各層・各働きは互いに影響し合い、行き来しながら循環します。
ここから、実際に体験してみる
ここまで読んで興味が湧いた方は、この先の地図をすべて読み終える前でも、ワークショップに参加することができます。
日本インプロアーツでは、初めての方から経験者まで参加できるワークショップを開催しています。ほかの参加者と一緒に遊び、身体を動かし、互いに影響を受けながら、その場から何かが生まれていくことを実際に体験できます。
冒険の入口|プレイフルネスの種火と冒険の広場
日本インプロアーツでは、好奇心や遊び心は、一人ひとりの中にすでに「種火」のように存在していると考えています。日常の中でその存在に気づき、思い出し、少しずつ温めていくところから、この冒険は始まります。
『非認知能力を育む「即興(インプロ)の知恵」』にある「冒険への小道」や、『いつもの景色に、遊び心を――あなたの冒険のはじめ方』(現在執筆中)など、日常の中で一人でも取り組める入口があります。日常の小さな実践から、自分のペースで冒険を始めることができます。
そして、それぞれの種火を持った冒険者たちが集まり、ワークショップという形で一緒に本格的な冒険を始める最初の場所が「冒険の広場」です。声や身体を使って遊び、互いの言葉や動きなどの表現を受け取り、影響を受けながら関係をつくっていく。自分の中にある遊び心(Playfulness)が、他者とともに遊ぶCo-Playfulへひらかれていく場所でもあります。
詳しく読む
そこで出会った人たちは、これから一緒に未知へ進む「冒険のパーティー」になっていくかもしれません。
主なキーワード:遊び心(Playfulness)/尊重(Respect)/支えること(Support)/信頼(Trust)/アンサンブル(Ensemble)
大地・海原・天空
最初の本格的な道|大地のインプロ
――空間と身体性
大地のインプロでは、ヴァイオラ・スポーリンの実践を主要な参照軸の一つとして、空間、身体、相手、五感との関わりを深めます。
詳しく読む
目の前で起きていることを受け取り、身体や五感で応答する。実際にはそこに物がなくても、その重さや大きさ、位置を身体で扱うことで、仲間と同じ空間を共有していく。言葉で説明するだけでなく、身体の向きや動き、相手との距離、空間そのものを使いながら、仲間と協力して「今、ここ」にある世界を作り上げていきます。
大地には、三つの段階があります。
インプロの歩み出し → インプロの地ならし → インプロの大地
主なキーワード:Listen/Agreement/P.O.C.・Focus
大地のインプロは、三つの主要な領域の中で最初に進む道として位置づけています。
海原のインプロ
――真実のコメディ
海原のインプロでは、デル・クローズの実践と思想を主要な参照軸の一つとして、感情や関係性、人間らしさとの関わりを深めます。
詳しく読む
相手の言葉や表情、声、身体の動き、間などを受け取り、それによって自分も影響を受けながら応答する。その応答によって相手も変わり、二人のあいだに生まれる感情や関係も動いていきます。そうして生まれたものを仲間とともに受け取り、関わり続けながら、人と人とのあいだに立ち現れる真実や可笑しさ、面白さを探っていきます。
海原には、三つの段階があります。
インプロの漕ぎ出し → インプロの波乗り → インプロの海原
主なキーワード:Commitment/Honesty/At the Top of Your Intelligence/Pattern/Game
天空のインプロ
――挑戦と物語性
天空のインプロでは、キース・ジョンストンの実践と思想を主要な参照軸の一つとして、さまざまな可能性に挑戦しながら、仲間と物語を育てていくことを探究します。
詳しく読む
相手の言葉や行動、二人の関係の変化によって、自分の反応も、自分が思い描いていたことも変わります。そこで生まれたものや思いがけない出来事を生かし、次に何が起こるかを決め切らないまま、仲間と一緒に未知へ踏み出してみる。そのやり取りから人物が動き、関係が変わり、物語が育っていきます。
天空には、三つの段階があります。
インプロの飛び立ち → インプロの羽ばたき → インプロの天空
主なキーワード:Status/Spontaneity/Risk Taking/Storytelling
三つの道は、行き来しながら深まっていく
三つの主要な道は、大地のインプロから始まります。大地には「歩み出し・地ならし・大地」という三つの段階がありますが、その三段階をすべて終えてから海原や天空へ進む、という設計ではありません。大地で土台となる空間や身体の感覚を育みながら、海原や天空へ進み、また大地へ戻ってくる。海原と天空もそれぞれ三つの段階を持ち、三つの道を行き来しながら、それぞれの探究を深めていきます。
三つの道で扱うものは、別々に切り離されているわけではありません。大地で深めた空間や身体の感覚は海原や天空でも働き、海原で深めた感情や関係性への感覚も、天空で深めた、さまざまな可能性に挑戦しながら物語を育てる感覚も、ほかの道での実践に生きてきます。同じ道に戻ったとき、以前とは違うものが見えてくる。その行き来も、このロードマップの大切な一部です。
冒険を支え、広げる外郭領域
大地、海原、天空という三つの大きな道の周囲には、その探究を支え、別の角度からインプロを深めてくれる「外郭領域」があります。
好奇心・探究心
インプロの外にある人、仕事、社会、文化、歴史、芸術、自然、科学などにも好奇心や探究心を向け、実際に知り、見て、聞いて、体験していく。そうして広がった人や世界への理解は、人物や関係性、出来事を捉え、表現するときにも生きてきます。中でも、海原のインプロと特に強く関わります。
演技術・演出論
身体や声、人物や感情を扱う演技の視点と、位置、動き、タイミング、焦点、構図、作品全体の流れを見る演出の視点。大地・海原・天空のすべてに横断的に関わり、そこで生まれたものをより豊かに表現するための手がかりになります。
脚本理論
人物の目的や葛藤、関係性や状況の変化、出来事の展開など、物語について培われてきた考え方を知ることで、即興の中で起きていることを捉える新たな視点が生まれます。人物や出来事から物語を育てていく天空のインプロと、特に強く関わります。
その先にも、冒険は続いていく
未開の領域
大地・海原・天空で探究してきたものを重ね合わせながら、作品としてどのような表現形式にしていけるのかを探っていく領域です。デュオ、ロングフォーム・コメディ、フルレングス・アークなど、比較的長い時間を使って作品をつくる表現形式を中心に、さらに探究を深めていきます。
未踏の領域
その先には、まだ十分に形になっていない表現の可能性も広がっています。オンラインでのパフォーマンス、日本で育ってきた文化や表現との接続、音楽やダンスの即興とインプロ(即興演劇)・パフォーマンスの相互作用など、まだ試みたことのないことに取り組みながら、その可能性を探究していきます。
探究とともに、ロードマップも変わっていく
未開の領域と未踏の領域は、探究が進むにつれて、その位置づけも少しずつ更新されていきます。アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)は、実践と探究を重ねながら、これからも変化し、広がっていくロードマップです。
日本インプロアーツがロードマップをどう確かめ、育てているかを詳しく読む →
この世界を、どこから歩き始めますか?
アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)では、一人ひとりの中にある「プレイフルネスの種火」から冒険が始まります。そして、人と出会い、一緒に遊び、互いに影響を受けながら関わっていく最初の場所が「冒険の広場」です。日本インプロアーツのワークショップも、この冒険へ実際に入っていく入口の一つです。
そこから、空間と身体性を探究する大地のインプロへ進み、その先に海原のインプロと天空のインプロが広がっていきます。三つの主要な道は大地から始まりますが、その後は海原と天空を行き来したり、大地へ戻ったりしながら、それぞれの探究を深めていきます。
まずは、今の自分に合った入口から、この世界での冒険を始めてみてください。