この資格認定制度に込めた想い
インプロは、仲間と一緒に遊び、表現しながら、その場で新しいものをつくっていく舞台芸術です。ゲームやエクササイズを楽しむ中でも、互いのアイデアや反応が影響し合い、一人では思いつかなかった展開が生まれていきます。
さらに、人物になって場面を演じる実践では、相手とのやり取りによって感情や関係性が動き、仲間とともに物語をつくり上げていきます。演じる人物として経験したことは、プレイヤー自身の経験にもなります。
こうして人と関わり、互いに影響を受けながら共につくる経験を重ねることは、自分の感じ方や人との関わり方にも新たな可能性をひらいていきます。
日本インプロアーツは、こうした共創と変容の可能性を、舞台やワークショップから、日常や仕事、教育、地域など、社会のさまざまな場へ広げていきたいと考えています。
そのために、インプロの技芸を深く学び、実践し、人とともに豊かな場をつくることのできる人を育て、その能力を認定する仕組みを設けます。
認定を通じて、信頼できる実践者が継続的に育ち、それぞれの場所で活動を広げていく。そうした人々のつながりを育むことも、この制度が目指すものです。
インプロの技芸を社会へ広げる資格認定
インプロの学びを舞台やワークショップだけにとどめず、職場や学校、地域で生かしていくには、それぞれの現場で活動を担える人が必要です。研修講師や教師、地域の企画者などが、目の前の人の経験や目的に合わせてインプロを取り入れられるようになれば、学びや交流の機会は、より身近な場所にも広がっていきます。
もっとも、同じゲームを知っていても、誰に対して、何のために行うかで進め方は違います。初対面の参加者が集まる場と、長年働いてきたチームでは、関係性も期待される成果も異なるでしょう。活動の目的を定め、参加者の状態を観察し、必要に応じて進行を調整する力は、ゲームの手順を覚えるだけでは身につきません。
そのために必要な学びと実践を重ね、実際に場を担う能力を審査で確かめることが、資格認定制度の役割です。受講を終えたことと、一定の範囲で企画・進行を担う力が認められたことを区別すれば、取得する人にも、活動を依頼する人にも、認定の意味が明確になります。認定後も実践と振り返りを続け、技芸を深めていく仕組みを育てていきます。
資格・認定・修了証の違い
日本インプロアーツでは、他者にインプロの体験を提供する能力を認めるファシリテーター資格を中心に、インプロの経験と理解を認めるプラクティショナー認定、各コースの履修を示す修了証を設けます。三つは目的と確認する内容が異なります。
ファシリテーター資格|体験の場を設計し、進行する能力
「Co-Playful インプロファシリテーター™」は、参加者と目的に合ったインプロの体験をデザインし、実際にデリバリーする力を審査する資格です。活動の選択と構成、説明、参加者への働きかけ、その場で起きていることの観察、状況に応じた進行の調整など、場を担うための技芸を扱います。
資格の認定範囲に応じて、日本インプロアーツ公認ワークショップを自主開催することにもつながります。入門的な「ゲーム体験ガイド」は、短いゲーム体験会を自分で開催・進行する力を対象とし、公認ワークショップの開催権は含みません。具体的な資格の種類と道筋は後のセクションでご紹介します。
プラクティショナー認定|インプロの経験と理解を認める
「Co-Playful インプロプラクティショナー™」は、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)の各段階で所定の経験を積み、内容への理解を確認した方への認定です。規定の参加・経験条件に加えて、選択式の理解度確認テストに合格したことを認めます。演技の上手さや即興実技の巧拙を審査する制度ではなく、インプロの実践能力を保証するものでもありません。
認定は、冒険の広場の2段階と、大地・海原・天空の各3段階を合わせた計11段階に対応します。自分自身のインプロの探究を重ねてきた記録としても、ファシリテーターを目指すための土台としても意味があります。
修了証|所定のコースを修了したことを示す
アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)の各段階で、規定の出席条件を満たした方に発行します。修了証は、そのコースに参加してきたことを示すもので、知識確認テストの合格や実際のファシリテーション能力の審査を必要としません。資格取得を目指すかどうかにかかわらず、それぞれの経験を重ねていく節目になります。
私たちが思い描くファシリテーター像
私たちが思い描くのは、まず自分自身が人と一緒に遊ぶことを楽しみ、その場で生まれる出来事を面白がれるファシリテーターです。互いの働きかけを受け取り、自分からも働きかけながら、一人では生まれなかった体験を仲間とともにつくっていきます。
一人ひとりの持ち味や可能性を大切にし、相手の言葉や表情、身体の動き、その場で起きていることに丁寧に目を向ける。そして、それぞれの表現や働きかけが生きるように、人と人との関わりを支えていきます。
ファシリテーターは、参加者がともに遊び、創造する機会をつくり、その進行を預かる人でもあります。必要な準備を行い、参加者の様子や状況を受け取りながら、働きかけ方や進め方を柔軟に選んでいきます。
そして、自分自身もインプロを実践する一人として、仲間から影響を受け、学び、変わり続ける。ともに遊び、ともにつくり、ともに成長していく。そんなファシリテーターを、私たちは思い描いています。
Co-Playful インプロファシリテーター™への道
研修や人材育成に携わる方には、受講者の経験から学びを深める方法を増やしたいという関心があるでしょう。コーチやファシリテーターであれば、言葉に現れた内容だけでなく、参加者の反応や関係性にも目を向けたいかもしれません。インプロを長く続けてきた方には、その面白さと技芸をほかの人に伝えたいという思いもあります。出発点は違っても、場を担うための学びには共通する部分があります。
まず参加者としてインプロを十分に経験し、相手とのやり取りから影響を受け、表現や場面が生まれる過程を自分自身で知っていきます。その経験を土台に、次は他者にどのような体験をしてもらうかを考え、活動の選択と構成、説明の仕方、進行中の観察や働きかけ、振り返りを支える方法を磨きます。プレイヤーとしての経験の豊かさと、ファシリテーターとして場をデザイン・デリバリーする力を結びつけていきます。
Co-Playful インプロファシリテーター™資格の魅力
ファシリテーターを目指す過程で、自分自身のインプロの技芸を深められることも大きな魅力です。相手の表現を受け取り、人物として働きかけ、思いがけない展開に応じた経験は、今度は参加者に何を経験してもらうかを考える手がかりになります。その体験を知っているからこそ、ゲームやシーンのねらい、場の条件、関わり方を考えながら活動を組み立てられます。
参加者が共に遊び、創造する時間に立ち会えることも、ファシリテーターならではの喜びです。最初は遠慮がちだった人が仲間の働きかけを受け取って笑顔になったり、二人のやり取りから誰も考えていなかった展開が始まったりする。そのような瞬間を参加者とともに味わいながら、自分自身も相手から学べるところに、この役割の面白さがあります。
仕事や活動で使える方法が増えることも重要です。例えば研修であれば、参加者同士の関わりを学習体験として設計し、起きたことを振り返りへつなぐ力を磨けます。教育や対話、地域の活動でも、対象者に合わせた方法を選ぶ選択肢が広がります。そして資格認定は、こうした学びを重ねた先に能力を審査で確かめ、認定された範囲で公認ワークショップを担う可能性へつなぐ点で、通常のコース受講とは異なります。
インプロを経験することから、体験の場をつくることへ
「相手の話を聴く」「協力して課題に取り組む」という言葉を知ることと、相手の反応を実際に受け取り、自分の行動を変えてみることは別の経験です。インプロでは、身体を動かし、言葉を交わし、ともに表現する中で、注意や判断、協働の働きを具体的に経験できます。ファシリテーターには、こうした経験を参加者に届けるための活動を選び、条件を整える力が必要になります。
例えば、相手の動きに応じて身体を動かすゲームでは、距離やタイミングへの注意がどう変わるかを実感できます。仲間のアイデアを受けて場面を続ける活動では、自分だけでは思いつかなかった方向へ関係や物語が動くことがあります。こうした経験は、協働やコミュニケーションを説明する言葉に、実際の感覚を伴わせてくれます。
人物になってシーンを演じる実践では、さらに別の経験が待っています。相手の言葉によって演じている人物の感情や選択が変われば、その反応が二人の関係や物語を動かします。そこでの経験は、舞台の中だけの出来事であると同時に、実際に演じたプレイヤーの身体や感情にも残ります。多様な人物や関係を経験することが、その人自身のものの見方や人との関わり方に影響する可能性もあります。
こうした体験が誰にでも同じ変化をもたらすわけではありません。ファシリテーターは、参加者が実際に何を経験しているのかに目を向け、活動の目的やその場の状態に合わせて進行を調整します。必要に応じて振り返りの機会を設けながら、一人ひとりが自分の経験を確かめられるように関わることも、この資格で扱う技芸です。
場を読み、進行する技芸|慈愛と地合い
研修や対話の場で参加者を尊重する姿勢は大切ですが、実際の進行には、その時々の判断も欠かせません。例えば、問いかけた後に沈黙が続いたとき、じっくり考えているのか、問いが伝わっていないのか、ほかの人の発言を待っているのかによって、適切な関わり方は変わります。
日本インプロアーツでは、人や場に向けるあり方を「慈愛」、その場の流れや状態、これからの動きの兆しを捉える視点を「地合い」と呼び、二つを重ねて「ジアイ」と考えています。慈愛には、一人ひとりのよさや、まだ現れていない可能性を信じ、そこに現れた表現を尊重する姿勢が含まれます。地合いは、その姿勢を実際の判断につなぐために、参加者の様子や関係性、活動の流れを読み取る働きです。
例えば、研修でグループへの問いかけのあと、発言がしばらく途絶えたとします。そこで直ちに説明を重ねるのではなく、参加者の視線や身体の向き、それまでのやり取りを確かめます。考えをまとめている人がいるのか、話し始めたい人がいるのか、問いそのものに戸惑っているのか。見えていることと自分の解釈を区別し、複数の可能性を考えます。
そのうえで、もう少し待つ、問いを具体的にする、二人で考える時間を設ける、活動の焦点を示すといった方法を選びます。働きかけた後の反応も観察し、必要なら進め方を改めます。この観察、見立て、関わり、反応、調整の繰り返しを、具体的な場面を通して磨いていくことが大切です。
進行役も、参加者の外側に立ってすべてを操作するわけではありません。自分の問いかけや説明も場に影響しますし、相手の反応によって自分の判断が変わることもあります。『菩薩的伴奏者を生きる』で描いている、いま聞こえている音に耳を澄ませながら自分も伴に奏でるという姿勢は、この学びの土台です。
場を預かる人には、目的や時間、安全面への配慮、参加者との境界を守る責任もあります。そのうえで、目の前の人にどんな経験が必要かを考え、関わり方を選ぶ。インプロをファシリテーションに生かすには、相手への敬意と同じくらい、こうした実践的な判断を磨くことが欠かせません。
仕事や活動に生かすインプロの技芸
ここで学ぶ技芸は、インプロのワークショップを開催するためだけのものではありません。研修やコーチング、教育、チーム運営、地域活動など、すでに人と関わる仕事をしている方にとっては、目的に合った体験を設計し、参加者の反応に応じて関わり方を選ぶための方法を増やす学びにもなります。
企業研修・人材育成――体験型研修を設計・実施する専門能力を高める
企業研修の講師や人材開発担当者には、研修で扱った内容を、受講者自身の経験や職場での実践につなげる役割があります。例えばコミュニケーション研修なら、「相手の話をよく聴きましょう」と伝えるだけでなく、相手の言葉や行動に応じることで共同作業がどう変わるかを、受講者が実際に経験できる活動を組み込めます。
その際には、研修の目的と対象者を踏まえて、何を経験してもらうかを明確にし、適切なゲームや課題を選びます。進行中も、参加者の理解度や関わり方を見ながら、説明、時間配分、活動への働きかけを調整する必要があります。インプロのファシリテーションを学ぶことは、こうした体験型プログラムの設計と運営に必要な判断の幅を広げることにつながります。
体験後の振り返りでは、何を感じたかだけでなく、相手の働きかけをどう受け取り、自分の選択によって何が変わったかを確かめます。その経験を、会議での対話や部署を越えた協働など、実際の業務とどう結びつけるかまで考えることで、研修の学習目標に沿った時間にできます。人材育成の目的設定や効果検証には別の専門性も必要ですが、インプロはその仕事を支える実践的な方法を増やします。
チームを率いるリーダー――対話の質を高め、異なる意見を判断につなげる
チームの会議では、同じテーマを話し合っていても、立場によって見えている問題が違うことがあります。早く結論を出す必要がある一方で、最初に出た案だけで進めると、現場で起きている重要なことを見落とす場合もあります。誰の意見をどう受け取り、何を確かめたうえで決めるのかは、リーダーが担う大切な判断です。
インプロでは、相手の言葉や行動を受けることで、自分の考えや次の働きかけが変わる経験を重ねます。自分から働きかけるだけでなく、ほかの人から影響を受けて判断を更新する。その経験は、部下の意見を聞いたうえで論点を整理したり、複数の案を組み合わせて新しい進め方を検討したりする際にも、関わり方を見直す手がかりになります。
もちろん、リーダーには決断し、責任を引き受ける役割があります。役職や評価権限によって、メンバーの発言しやすさも変わります。だからこそ、自分の問いかけや反応が場にどんな影響を与えるかに注意を向け、必要な意見が実際に検討される条件を整えることが重要です。インプロから学べるのは、判断を手放すことではなく、人の働きかけを生かしながら判断するための実践です。
コーチ・ファシリテーター・対人支援の専門職――観察と体験的な関わりを深める
コーチングやファシリテーションでは、相手の言葉を丁寧に聴き、問いかけ、その人自身が考える時間を支えます。その専門性にインプロの実践を加えると、話された内容だけでなく、沈黙の長さ、声の調子、身体の動き、参加者同士の距離や視線など、場で実際に起きていることへ注意を向ける経験を重ねられます。
例えば、面談の相手が「大丈夫です」と答えても、表情や声の調子から少し違う印象を受けることがあります。そこで相手の気持ちを決めつけるのではなく、自分が実際に見聞きしたことと解釈を分け、必要なら丁寧に確かめる。インプロで相手の働きかけを受け取りながら応じる経験は、そうした観察と応答を磨く手がかりになります。
また、言葉で状況を説明するだけでは捉えにくいテーマも、簡単な共同課題や身体を使う活動を通して、本人が関わり方を経験できる場合があります。例えば、相手に合わせて動く課題から、どのタイミングで自分が主導し、どのタイミングで相手に応じたのかを振り返ることもできます。対話に加えて、経験を通した気づきを支えるための方法が増えるのです。
ただし、参加者の感情や行動を、進行役が望む方向へ変えることを目的にはしません。本人の同意と選択を尊重し、経験をどう受け取ったかはその人自身に確かめます。医療・心理支援や専門的なコーチングにはそれぞれ固有の資格や倫理があり、日本インプロアーツの認定がそれらを代替するものではありません。
地域活動・コミュニティ――多様な人が関われる交流の場を設計する
地域の交流会やコミュニティの集まりでは、初めて来た人と長く参加している人が同じ場にいることがあります。自己紹介や自由な会話だけでは、知り合い同士に交流が偏る場合もあるでしょう。そんなとき、参加者が言葉や身体の動きを受け取り合う簡単な活動を用意すると、それぞれが無理なく関わり始めるきっかけをつくれます。
場の目的や参加者の年齢、経験、関わり方の違いによって、適切な活動は変わります。すぐに声を出して遊ぶ人も、周りを見ながら少しずつ加わる人もいるため、同じ参加の仕方を全員に求めないことが大切です。進行役は、説明や進める速度を調整し、参加する範囲を本人が選べるようにしながら、一緒に過ごせる時間を整えます。
このような場で必要なのは、一度の交流を盛り上げることだけではありません。参加した人が互いの持ち味を知り、次に顔を合わせたときにも関わりを続けられることには価値があります。参加者とともに活動をつくる技芸は、地域の講座や居場所づくり、世代を越えた交流など、さまざまな活動に生かせます。
教育・学びの場――経験から発見する学習活動を設計する
学校の授業や社会人の学習会では、教える内容に加え、学ぶ人が何を経験し、何に気づくのかを設計することが重要です。インプロのシアターゲームには、具体的な課題に取り組む中で、身体や空間、仲間との関わりを通して学べるようにする方法があります。説明を聞くだけでは捉えにくいことも、実際の経験を振り返ることで考えられるようになります。
ヴァイオラ・スポーリンが重視したFocus/Point of Concentration(POC)は、参加者が活動中に注意を向ける焦点を明確にする考え方です。例えば、相手と動きを合わせる活動なら、完成した動きを先に評価するのではなく、「相手の動きをよく見る」という具体的な課題に取り組みます。何を確かめているのかが分かると、学ぶ人は自分の経験を手がかりに考えやすくなります。
教育に携わる人には、学習者の年齢や経験、授業・講座の目的に合わせて課題を選び、活動中の様子を受け取り、振り返りを支える力が求められます。インプロを学ぶことで、そのための活動や問いかけの選択肢を広げられます。教科内容や専門教育の知識と組み合わせて使うことで、経験を通して学ぶ時間を豊かにできます。
日本インプロアーツの実践と探究|三大源流をつなぐ技芸
日本インプロアーツでは、舞台芸術としてのインプロの多彩な技芸を、仲間との稽古・公演・ワークショップでの実践と、原典・関連資料の読解を行き来しながら探究してきました。スポーリン、デル・クローズ、キース・ジョンストンという三つの主要な源流には、それぞれ独自の方法と、互いに通じ合う考え方があります。
同じように見えるゲームでも目指す経験が異なることがあり、反対の教えに見えても、背景や使い方をたどることで共通する働きが見えてくることがあります。違いを消さず、そこにあるつながりを現場で確かめながら、インプロの広い世界を一つの実践と探究の道筋に編んだものが、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)です。こうした厚みがあるからこそ、参加者や場の目的に合わせて方法を選び、その理由を考えられるようになります。
三つの源流の違いとつながり
現代のインプロには、重要な源流となった三人の実践家がいます。ヴァイオラ・スポーリンは、ゲームや具体的な課題を通して、身体や空間、仲間との関わりを経験から学ぶ方法を発展させました。デル・クローズの周辺では、人物同士のやり取りや関係性に深く関わり、仲間と長い作品をつくる技芸が発展しました。キース・ジョンストンは、人と人との立場や力関係、未知への挑戦、物語を育てる実践などを探究しました。
ただし、三人を別々の領域だけに閉じ込めることはできません。空間や身体、感情と関係性、人物や物語、仲間との協働は、形を変えながら多くの実践に現れます。日本インプロアーツでは、それぞれの教えを単に並べたり、一つに混ぜたりするのではなく、何が同じで何が違うのか、どのような状況で働くのかを丁寧に確かめています。
以下の二つの比較は、その探究の具体例です。原典に残る言葉を実際のシーンやゲームと照らし合わせることで、表面上の言い回しだけでは分からない違いやつながりが見えてきます。これは知識を増やすためだけでなく、プレイヤーとして何を受け取り、進行役として何を働きかけるかを考える手がかりになります。
デル・クローズとキース・ジョンストンの比較
例えば、デル・クローズの指導について、チャーナ・ハルパーンは『Art by Committee』で、シーンの中で最初の反射的な考えを一度手放し、さらに考えて応じるように教えられたと記しています。一方、キース・ジョンストンは『Impro』で、面白い答えを出そうとするあまり、自然に浮かんだ発想を自分で抑えてしまうことを論じています。
「最初の考えを手放す」と「最初の考えを生かす」は、表面だけ見れば正反対です。しかし、実際の場面では、どちらか一方を常に守ればよいという話にはなりません。演じる人物が相手との関係の中で自然に口にした言葉と、人物の状況から離れてプレイヤー自身が思いついた言葉とでは、同じ最初の反応であっても、舞台上での働きが違うからです。
時間をかけて考えることが、単に反応を遅らせることとは限りません。演じる人物や状況を十分に捉えていれば、相手に応じた言葉が自然に出ることもあります。指導者がこうした違いを理解していれば、「まず思いついたことを言う」「もっと考える」といった一つの指示を繰り返すのではなく、プレイヤーが何を見て、どこに注意を向けているかに応じて働きかけを変えられます。
キース・ジョンストンとヴァイオラ・スポーリンの比較
キースの『Impro for Storytellers』に登場する「帽子ゲーム」では、シーンを演じながら相手の帽子を取る機会を探します。相手の手の動きや距離、タイミングを見続けなければ、機会をつかめません。セリフや人物の表現を続けながら、目の前で起きていることにも注意を向ける練習です。
一方、スポーリンのシアターゲームでは、参加者が取り組む具体的な課題と、そこへ向ける注意の焦点(Focus/Point of Concentration)が大切にされています。さらに「GIVE & TAKE」というゲームでは、複数の組が互いの様子を感じ取りながら、舞台上でどこに注目を集めるかを受け渡していきます。
これらは同じ課題を扱うゲームではありません。それでも、相手をよく見ること、自分の行動と仲間の動きを同時に受け取ること、そこで得た情報を次の表現へ使うことには、考えを深められる接点があります。
長い時間をかけて展開するロングフォームでは、以前の場面で仲間が表したことを、後の別の場面で受け取り、作品全体の関係につなげることもあります。目の前の相手を見ることと、仲間の表現を記憶し、作品の流れを捉えることが結びついているのです。日本インプロアーツでは、こうした働きを演技や演出、脚本・物語の構造とも照らし合わせながら考えてきました。
約30年の舞台・指導実践と、100冊を超える原典・関連書籍
代表のへちゃっぷりんは、約30年にわたってインプロの稽古、公演、出演、演出、ワークショップや指導に携わってきました。プレイヤーとして人物を演じる経験だけでなく、仲間と作品をつくり、全体の流れを考え、技芸を人に伝える経験も重ねています。
英語圏のインプロ関連書籍100冊以上を読み解いてきたのも、そうした実践をより深く理解するためです。舞台で経験したことが、原典を読むことで別の角度から見えてくる場合もあれば、ある指導者の言葉を読んで、次の稽古で確かめたくなることもあります。実践と文献を行き来しながら理解を深めてきたことが、日本インプロアーツの学びの土台になっています。
さらに、代表には人材開発・組織開発・人事領域で約20年の実務経験があります。舞台で培った技芸をそのまま職場に持ち込むのではなく、研修の目的、組織の状況、参加者の立場や責任を踏まえて何が役立つかを考える。その両方の経験を持つことは、舞台芸術としてのインプロを、専門職の実践へ接続するうえでの強みです。
エキスパート・フェローとクリエイティブ・アライアンス
エキスパート・フェローは、教育、心理学、人材開発、組織開発などの領域で研究や実践を重ね、日本インプロアーツ/へっちゃらんどの活動に専門的な視点から示唆を与えてくださる探究の仲間です。分野を越えた対話や学び合いが、インプロの可能性を多角的に考える支えになっています。
クリエイティブ・アライアンスは、演劇、脚本、演出、演技、音楽、映像など表現・創作・文化の分野で活動する方々との、ゆるやかな協力・応援関係です。互いの実践を尊重しながら、舞台芸術としてのインプロと、さまざまな創作領域とのつながりを大切にしています。
異なる分野の研究者・実践者、舞台や創作の専門家との交流も、日本インプロアーツの探究を支えています。それぞれの関わり方や参加されている方の活動・コメントは、エキスパート・フェローとクリエイティブ・アライアンスの専用ページでご紹介しています。
資格取得への道筋と、扱う領域
Co-Playful インプロファシリテーター™は、他者にインプロの体験を提供する力を、扱う内容や活動の範囲に応じて認定する資格体系です。アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)で経験を積むことはその土台になります。各段階の修了証や、計11段階のプラクティショナー認定によって経験と理解を積み重ねながら、実際に活動を企画・進行するファシリテーターとしての技芸を磨いていきます。ファシリテーター資格では、参加経験や知識の確認だけでなく、他者の体験の場を担えることを審査します。
入門的な資格|ゲーム体験ガイド
ゲーム体験ガイドは、Co-Playful インプロファシリテーター™の資格体系の中で最も軽い入門的な認定です。基本的なインプロゲームを理解し、参加者に説明しながら、30分〜1時間程度のゲーム体験会を自主開催する基礎能力を対象とします。この時間は開催する体験会の長さであり、資格取得に必要な受講時間ではありません。
友人や職場の仲間、地域の人たちにゲームを紹介する際にも、活動の目的を伝え、説明を分かりやすくし、参加者の様子に応じて進める力が必要になります。自分が遊んでいたときには気づかなかったことも、進行を担う経験によって見えてきます。この区分では、そのような短い体験会を適切に進行するための基礎を考えています。
ゲーム体験ガイドは、あくまで入門的な能力認定です。自主的にゲーム体験会を開催することと、日本インプロアーツ公認ワークショップを開催することは異なります。この資格には公認開催権は含まれません。審査の具体的な条件は、募集要項でご案内します。
扱う領域を広げるファシリテーター資格
冒険の広場|多彩なゲームをともに楽しみ、進行する
「冒険の広場」では、仲間とともにさまざまなゲームを楽しみ、互いの働きかけで遊びが変わる面白さを経験します。この範囲を担当するファシリテーターには、複数のゲームを選び、組み合わせ、初めての方も関われる体験の場を進める力が求められます。
大地のインプロ|空間と身体性
「大地のインプロ」で探究するのは、空間と身体性です。この領域の体験を提供するファシリテーターには、参加者が身体や五感で相手や空間と関わる活動を設計し、その場で生まれる表現や変化を受け取りながら進行する技芸が求められます。
海原のインプロ|感情・関係性と洞察
「海原のインプロ」では、感情・関係性と洞察を深めます。この領域のファシリテーターには、参加者が人物として関わり、感情や関係の変化、その中に現れる人間らしさを探究できる場をつくり、やり取りの展開に応じて働きかける技芸が求められます。
天空のインプロ|挑戦と物語性
「天空のインプロ」では、挑戦と物語性を探究します。この領域のファシリテーターには、参加者が未知の展開に踏み出し、仲間の働きかけから物語を育てる体験を構成し、予定していた筋書きに頼らず進行する技芸が求められます。
冒険の広場はインプロを仲間と体験し始める入口、大地・海原・天空は三つの主要な探究領域です。プラクティショナー認定の11段階は、こうした実践の中で経験と理解を積み重ねたことを示します。ファシリテーター資格では、参加者にどのような体験を提供できるかという範囲と、実際に場を進める能力を確かめます。
より広い領域を担うファシリテーター資格
プロフェッショナル|全領域の体験を設計・提供する
プロフェッショナルは、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)の全領域について、参加者の体験をデザインし、提供・進行する総合的な能力を身につけ、所定の審査に合格した人に与えられる上位資格です。異なる領域の技芸と特性を理解したうえで、目的や参加者に応じて活動を構成し、その場で生まれる出来事に応じながら進行する力を認定します。
マスター|さらに専門的な探究と指導者育成へ
マスターは、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)の全領域に加え、さらに高度な実践やプログラム開発、ファシリテーターの育成などへと活動を広げていく上位資格の構想です。インプロを提供する場の質を高め、実践を発展させていく役割を見据えています。
資格に向けた経験の積み重ねは、コースに参加するだけで終わりません。仲間とインプロを実践すること、他者へ体験を提供すること、その結果を振り返り、次の場づくりに生かすことを重ねながら、ファシリテーターとしての技芸を深めていきます。
資格取得によって広がる活動
資格の取得は、学んだ技芸と場を企画・進行する力を審査によって示す節目であり、その後の活動へ進む一つの道筋です。認定範囲に応じた公認ワークショップの自主開催に加え、日本インプロアーツが受託する企業研修・組織開発などへの参加、認定者同士の継続的な実践と交流へつながる可能性があります。
実際の活動では、参加する人や目的が変われば、必要な判断も変わります。資格取得後も、自分で場をつくる経験と、ほかの実践者とともに取り組む経験を重ねながら、技芸を深めていくことを大切にします。こうした活動は取得した資格の種類や、本人の実践経験、個々の条件によって異なります。
認定範囲での公認ワークショップの自主開催
日本インプロアーツ公認ワークショップの自主開催は、資格ごとに定める認定範囲と開催条件に基づきます。自分の地域や活動拠点で学んだ領域の技芸を生かし、新しい場を企画する道につながります。開催できる内容、名称や教材の使用条件は、各資格の認定規程でご確認ください。
認定者が自主開催する公認ワークショップと、日本インプロアーツが直接主催するワークショップは区別します。名称・教材の使用や品質管理などの条件は、各資格の認定規程に従います。入門区分のゲーム体験ガイドには、公認開催権は含まれません。
日本インプロアーツの企業研修・組織開発への参加機会
日本インプロアーツが企業研修、人材育成、組織開発などの仕事を受託した際には、資格認定を受けた方に、アシスタントとしての参加や、案件の内容に応じてファシリテーターとしての登壇をお願いする場合があります。自分で公認ワークショップを開催することとは別に、団体が引き受けた仕事の現場で実践経験を重ねる可能性があります。
参加や登壇の役割は、取得した認定範囲、これまでの実践経験、専門分野の経験、案件ごとの必要性を踏まえて判断します。資格を取得すれば必ず仕事を紹介するという制度ではなく、参加・登壇や報酬を保証するものではありません。また、インプロの資格だけで企業研修や組織開発全般の専門能力を一律に認定するものでもありません。
認定後も、仲間と学び続ける
同じテーマのワークショップでも、参加者の経験や反応によって進行の判断は変わります。開催して終わりにするのではなく、何を意図してどんな活動を選び、実際に何が起きたのかを振り返ることで、指導や進行の技芸は深まっていきます。認定後も、ほかの実践者との学び合いを続けられることを大切にします。
認定者同士で活動の工夫を持ち寄り、実践を振り返り、互いに学び合う機会も大切にしています。共同企画や公開実践などへつながることも、継続して技芸を磨くための一つの可能性です。参加できる具体的な活動や交流の情報は、公式の案内でご確認ください。
資格・認定制度の開始予定と最新情報
日本インプロアーツでは、2027年の法人化にあわせて、Co-Playful インプロファシリテーター™資格やCo-Playful インプロプラクティショナー™認定などの制度を順次開始する予定です。
各制度の開始時期や講座・ワークショップの開催情報、参加・申込方法などは、決まり次第ご案内します。
資格取得やインプロの実践に関心のある方は、ぜひ日本インプロアーツの公式LINEにご登録ください。制度の続報や新しい講座の情報をお届けします。