「日本インプロアーツ」という名前には、私たちがインプロをどう捉え、これから何を育てていきたいのかという思いを込めています。
世界で長い時間をかけて育てられてきたインプロの知恵や技術を受け取り、日本で実践を重ねながら、さらに豊かなものにし、その先へつないでいくこと。
即興演劇という舞台芸術をより豊かなものにするとともに、そこで育まれたアーツ(技芸)を、日常や人生、仕事や社会へひらいていくこと。
その二つを大切にしていきたいという思いから、「日本インプロアーツ」という名前にしました。
私たちが扱うインプロとは
「インプロ」という言葉は、英語の improvisation に由来します。日本語にすると「即興」です。
即興は、音楽にもダンスにも、さまざまな表現の中にあります。その中で、日本インプロアーツが中心に扱うのは、即興演劇としてのインプロです。
台本をあらかじめ用意せず、その場で相手や状況に関わりながら、人物や関係、出来事や物語を生み出していく。即興演劇である以上、インプロは舞台表現であり、舞台芸術です。
気軽に楽しめるゲームもあれば、長い時間をかけて一つの作品を生み出すものもあります。笑いを生み出す作品も、人間関係や物語をじっくり描いていく作品もあります。
そこには、豊かな広がりと奥行きのある世界があります。
日本で広がってきたインプロについて
インプロが欧米から日本へ紹介され、本格的に実践されるようになってから、およそ30年が経とうとしています。
現在では舞台表現にとどまらず、組織開発や人材育成、コーチング、ファシリテーション、ビジネス、そして教育など、さまざまな領域へインプロの活用が広がってきました。
実際にインプロの舞台を観たり、自分で体験したりしたことがなくても、「インプロ」という言葉や「Yes, And」というフレーズをどこかで耳にしたことがある方もいるかもしれません。
最初にインプロに触れるときには、「うまくやろうとしなくていい」「面白いことを言わなくていい」「相手の言ったことを否定しない」といった言葉が、インプロに取り組みやすくしてくれることもあります。そうした言葉には、それぞれ大切な役割があります。
ただ、インプロはそれだけではありません。その先には、長い歴史と数多くの実践の中で培われてきた、広く深い技術と表現の蓄積があります。
インプロには、広大な技術体系がある
インプロは即興なので、基本的にはあらかじめ決められた台本がありません。しかし、台本がないからといって、技術がないわけではありません。
相手やその場をよく見て感じ取り、そこで表現されていることを受け取る技術があります。そして、受け取ったものによって自分も変わり、そこから応答していく技術もあります。
また、人物や関係を育て、空間や身体を使い、出来事を発展させ、仲間とともに場面や物語をつくっていくなど、さまざまな技術があります。
声や感情、行動、ステータス、構成やリズム、観客との関わり、アンサンブルとしての動きも、その中に含まれます。
そして、世界には複数の源流や系譜があります。そこを越えて共通して見られる技術もあれば、それぞれの美学や上演形式の中で特徴的に発展してきた技術もあります。
多くの実践者やカンパニーが試行錯誤を重ねながら、そうした蓄積をつないできました。
技術を知り、実際に試し、何度も使いながら身につけていくと、できることも少しずつ増えていきます。
技術が増えることで、より深く遊び、思いもしなかった展開へ進めるようになります。
人物や関係、物語をさらに豊かに育てられるようになり、一人ではつくれなかったものを仲間と生み出せるようになります。そして、その積み重ねが、観客にとっても見応えのある舞台表現につながっていきます。
技術が、アーツ(技芸)へ育っていく
技術は、知識として知っただけで身につくものではありません。
実際に使い、振り返り、また試すことを繰り返すうちに、技術は少しずつ身体になじんでいきます。
やがて、相手や状況に応じて意識的に使い分けられるようになり、さらに経験を重ねるうちに、必要なときには考え込まなくても自然と働くようになっていきます。
そこには、その人自身の感性や経験、判断、身体感覚も重なっていきます。
私たちは、そうして身につけた技が、その場に応じた生きた表現として働くところまで育ったものを、「アーツ(技芸)」と捉えています。
この感覚は、日本でも耳にする「martial arts(マーシャルアーツ)」という言葉の「arts」に近いところがあるかもしれません。
一つひとつの技を覚えるだけではなく、実践を重ねながら身体になじませ、その人自身のものとして使いこなしていくという意味です。
技芸としてのアーツがあるからこそ、即興演劇というアートは、より豊かなものになっていくと私たちは考えています。
「日本インプロアーツ」という名前の核には、この考えがあります。
舞台で育まれたアーツ(技芸)を、日常や社会へ
舞台で育まれたアーツ(技芸)は、即興演劇という舞台芸術を豊かにするとともに、日常や社会にもひらいていくことができます。
舞台では、相手や場をよく見て感じ取り、そこで表現されていることを受け取ります。そして、そこから影響を受けて自分も変わり、応答します。
また、人との関係を育て、変化を捉えながら、その場にいる人たちと一緒に何かを生み出していきます。
こうしたことを具体的な技術として繰り返し実践し、少しずつ身体や感覚になじませていきます。そして、その経験は日常や仕事、人との関わりの中でも、さまざまな形で生きてきます。
それは、組織開発や人材育成、コーチング、ファシリテーション、ビジネス、教育などの場だけでなく、日々の人との関わりや自分自身の人生にもつながっていきます。
インプロを日常や社会へひらいていくときにも、短いフレーズや考え方だけを切り出すのではなく、その奥にある技術や身体知、実践の積み重ねまで大切にしたいと私たちは考えています。
舞台で育まれたアーツ(技芸)が豊かになるほど、そこから日常や仕事、社会へひらけるものも広がり、その深さも増していきます。
舞台と日常や社会を行き来しながら、インプロが持つ可能性を育んでいくことも、日本インプロアーツが担っていきたいことの一つです。
「日本」に込めたもの
世界で育てられてきたインプロの実践や技術、思想を学び、その背景や違いも含めて受け取ります。
そのうえで、日本の文化や伝統、演劇や芸能、遊び、人と人との関わりにも目を向けながら、日本で実践を重ねていきます。
そうした中から、この場所だからこそ生まれるインプロを探究していきたいと考えています。
そして、「日本」という名前には、もう一つの思いがあります。
いつの日か、「日本でインプロといえば、日本インプロアーツ」と自然に名前が挙がるような存在になりたいと思っています。
その名にふさわしい実践を重ね、そこで育まれた知恵を社会へひらきながら、これから出会う人たちも含め、信頼できる仲間とともに活動を一つひとつ積み重ね、日本のインプロを育てていきたいと考えています。
アーツ(技芸)から、インプロード(即興道)へ
私たちは、技術は一度身につければそこで終わりというものではなく、実践の中で育み続けていくものだと考えています。
初心を大切にし、基本となることもおろそかにせず実践を重ねていくことで、以前は見えなかったものが見えたり、感じ取れなかったことを感じられるようになったりします。
同じ技術でも、その意味や使い方が少しずつ変わっていくこともあります。
そして、私たちはインプロの根底には遊びがあると考えています。
好奇心を持って人や出来事に関わり、思いがけない展開を面白がり、まだ見たことのない景色へ進んでいく。そのために技術を育み、少しずつ身体になじませていくことで、また新しい冒険ができるようになります。
こうした「道」としての感覚から、私たちは Impro と Road を組み合わせた造語「Improad(インプロード)」に、「即興道」という意味を込めています。
そして、へっちゃらんどで育ててきた遊び心や冒険する感覚を重ね、インプロを仲間やアンサンブルとともに歩んでいくための冒険のロードマップを、「アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)」と呼んでいます。
アドベンチャラス・インプロード™では、人と出会い、互いの表現や反応を受け取り、影響し合いながら、一人では行けなかったところへ進んでいきます。
信頼できる仲間とともに遊び、試し、技術を育みながら、まだ見たことのない景色を見に行きます。私たちは、インプロを長く楽しみ、深めていくこと自体を、そんな冒険として捉えています。
世界で育てられてきたインプロの知恵や技術を受け取り、日本で実践を重ねながら、さらに豊かなものにし、その先へつないでいきます。
技術を育み、それをアーツ(技芸)として生きた表現へつなげ、即興演劇というアートを豊かにしていく。そして、そのアーツ(技芸)を日常や仕事、人生、社会へひらき、そこでの人との関わりや経験も豊かにしていく。
「日本インプロアーツ」という名前には、そんな思いを込めています。