広大なインプロの世界を深く探究し、編む。

日本インプロアーツのインプロへの取り組み方

現代のインプロには、演劇教育や俳優訓練、即興コメディから、人物や関係性を深めるシーン、複数の場面を結び合わせる長い舞台作品まで、多彩な実践があります。その発展を理解するうえで大切な参照点となるのが、ヴァイオラ・スポーリン、デル・クローズ、キース・ジョンストンという三つの主要な源流です。そこからさらに、多くの実践者たちがそれぞれの方法や上演形式を育ててきました。

日本インプロアーツの探究の土台には、代表のへちゃっぷりんが約30年にわたり、さまざまな仲間と積み重ねてきた稽古、公演、演出、ワークショップ、指導などの実践があります。その中で得た気づきや生まれた問いを、三大源流の原典・記録と、その後の多彩な実践者による書籍や資料、映像と照らし合わせ、また現場で確かめてきました。そうして深めた理解がどのようにつながり、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)という学びのロードマップへ編まれてきたのか。その探究の様子をご紹介します。

現代インプロの多彩な源流と実践

インプロには、遊びながら演劇を学ぶシアターゲーム、身体や空間を扱う俳優の訓練、観客の前で展開する即興コメディ、人物の関係や物語をじっくり育てる上演など、さまざまな実践があります。一つのゲームを比較的短い時間で演じることもあれば、複数のシーン、人物、出来事を長い時間の中で結び、作品として展開することもあります。それぞれが異なる目的や面白さを持ち、舞台上で求められる技術も広がってきました。

その歴史には、源流同士の接点もあります。ネヴァ・ボイドの遊びと集団活動の実践に学んだヴァイオラ・スポーリンは、Theater Gamesを育てました。その考え方と実践は、息子ポール・シルズやデイヴィッド・シェパードらが関わったCompass Players、さらにThe Second Cityなど、シカゴの劇場文化の中でさまざまな形に展開していきます。

デル・クローズもCompass PlayersやThe Second City、The Committeeでの実践を経て、のちにチャーナ・ハルパーンとともにImprovOlympic/iOでロングフォームの可能性を発展させました。これは一本の師弟関係で説明できる歴史というより、多くの人と場所を通じて枝分かれし、時に交わってきた流れです。

一方、キース・ジョンストンは英国からカナダへと活動を広げ、Status、Storytellingや観客との関係など、別の角度から即興の可能性を探究しました。さらに、三つの主要な源流の周囲には、多くの劇場、カンパニー、教師、演者による独自の発展があります。日本インプロアーツでは、この広がりを見渡しながら、一つひとつの方法がどのような背景で生まれ、実践の中で何を可能にしてきたのかを探っています。

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実践とインプロ関連書籍を照らし合わせ、理解を深める

一つの言葉を取り上げても、異なる系譜の説明を読み比べると、その意味が深まっていきます。たとえば、インプロでよく使われるSpontaneity(スポンタネイティ)。演者が自然に反応することと関わる言葉ですが、それぞれの教師が何を大切にしてきたのかを見ると、注目するところには違いがあります。

ネヴァ・ボイドやスポーリンにつながる実践では、Spontaneityは、身体、感覚、知性、感情などが、環境や共同の課題、他者との関係の中で一つの全体として働くことと深く関わっています。キース・ジョンストンの著作では、自分の思いつきを先回りして評価したり、独創的に見せようとしたりする内的な検閲を緩め、自然に生まれたイメージや最初の反応を生かすことに重心があります。

両者には、現在の状況に直接関わり、過剰な自己評価から自由になっていくという接点があります。同時に、どの働きを捉えるためにその言葉を用いるのかが分かると、ゲームの意味や指導の意図も、より具体的に見えてきます。

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もう一つ、キースの『Impro for Storytellers』第6章「Making Things Happen」にあるSidetracking(サイドトラッキング)を見てみます。キースは、ヘラジカを追いかけている猟師たちが、途中でファストフード店に入り、コーヒーを飲み始める例を挙げます。観客はヘラジカをめぐる出来事がどう進むかに関心を持っていますから、店でのやり取りがその期待から離れていけば、物語の動きが途切れてしまいます。

ところが、店主が『偉大なヘラジカを撃った者には呪いが降りかかる』という話をしたなら、事情は変わります。ヘラジカは物語から消えたのではなく、後で再び使える素材として、いったん脇に置かれたことになる。キース自身が、同じSidetrackingの建設的な働きを示すために挙げた例です。

同じ章には、別の時間や場所での出来事を話すGossiping(ゴシッピング)も登場します。キースは、目の前の人物同士の相互作用を避ける働きとともに、会話がその後のやり取りの準備や場面の土台になる可能性も示しています。

日本インプロアーツや、その前身となる活動でのロングフォームの実践では、その場にいない人物について交わされた話を受け、後の別のシーンで別のプレイヤーがその人物として登場する展開もあります。これはキースの原著に書かれた上演例ではなく、実践から得られた見方です。ある教えが何を問題とし、どのような使い方まで認めているのかを原典に戻って読むことで、舞台で見てきた出来事の意味も変わってきます。

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日本インプロアーツの探究は、こうした実践と読解の往復によって深まっています。現場で何度も経験し、身体では捉えていたことに、書籍を読んで初めて的確な言葉が見つかることがあります。別の著者の記述を読むことで、それまで一つだと思っていた現象の違いに気づいたり、次の稽古で確かめたいことが生まれたりもします。

日本インプロアーツ代表のへちゃっぷりんが読み解いてきた英語圏のインプロ関連書籍は100冊を超え、三大源流の原典に加えて、その後の多彩な実践者が残した経験や考察も重要な参照資料になっています。何のために、どの形式で、どのような相手や状況で技術が働くのかを、調べ、試し、照らし合わせ、理解を更新する。その繰り返しが、一つひとつの技を実際の場で使いこなす力を育てていきます。

実践と文献の往復から――探究の一端をたどる

異なる源流の教えを比較するところから、舞台上での注意の向け方、さらに仲間と作品をつくるときの働きへ。ここでは、実践と文献の照合によって生まれる理解のつながりを、一続きの考察としてたどってみます。

異なる教えを比較すると、どんな理解が深まるのか

―― デル・クローズとキース・ジョンストンの比較

デル・クローズの指導について、チャーナ・ハルパーンは著書『Art by Committee』の「Throw Out the First Thought」で、シーンの中では最初の反射的な考えをいったん手放し、二番目、三番目の考えに向かうよう教えられたと記しています。Slow Comedyの考え方ともつながる、よく観察し、知性を働かせて応じるための教えです。

一方、キース・ジョンストンは『IMPRO』で、独創的なことを言おうとする評価や検閲が、自然に浮かんだアイデアを押し込めてしまうことを論じています。最初に浮かんだ明白な発想を受け取ることには、どのような意味があるのでしょうか。

日本インプロアーツ代表のへちゃっぷりんが、長年の舞台実践を通じて考えてきたのは、その発想が、いま演じている人物や場面の状況とどれほど結びついているかということです。人物として相手と向き合い、その人が見ているものや、これまでの関係の中で自然に生まれた一言は、最初の反応であっても劇中の出来事として力を持ちます。

反対に、演じていた役から離れてプレイヤー自身の反応が前面に出る「役落ち」の状態では、本人にとっては自然な思いつきでも、人物や関係から生まれた応答とは異なる働きをすることがあります。もちろん、自分自身に近い人物を演じること自体が役落ちというわけではありません。舞台上で何を受け取り、誰としてそこにいるのかによって、同じ『最初に浮かんだ言葉』の意味も変わり得るのです。この点を含む詳しい考察は、記事末尾の「関連論考」に掲載しています。

さらにハルパーンは、デルの第三の考えについて、長く考え続けることだけを勧めているのではなく、訓練を重ねれば、より適切な考えへ可能な限り素早く到達できるようになるとも記しています。最初の考えを生かすことと、よく考えて応じることは、単純に反応の速さだけで比べられるものではありません。人物や状況を深く捉え、必要なときに判断できるようになることも、稽古を通して磨かれていく技術なのだと考えられます。

その働き方は、作品の時間幅や構造、共演者との関係、観客が何を見守っているかによっても変わります。短いゲームにも、じっくり人物を見つめる時間はあります。長い作品でも、明快な即応が展開を動かすことがあります。では、場面に即した応答を生み出すために、演者は実際に何を知覚し、どこへ意識を向けているのでしょうか。ここから、別の源流にある技法同士のつながりも見えてきます。

異なる技法の間に、どんなつながりが見えてくるのか

―― キース・ジョンストンとヴァイオラ・スポーリンの比較

キースの『Impro for Storytellers』第8章「Being There」には、The Hat-Game(帽子ゲーム)が登場します。プレイヤーは帽子をかぶってシーンを演じながら、相手の帽子を取る機会を探し、同時に自分の帽子を守ります。

会話や行動によってシーンを進めている最中にも、相手の手の位置、身体の動き、距離の変化を実際に見続けていなければ、機会に気づくことはできません。キースはこのゲームを通して、シーンを演じることと、相手を注意深く観察することが同時に働く状態を説明しています。いま目の前で起きていることへ注意を向ける、具体的な実践です。

ヴァイオラ・スポーリンのTheater Gamesでは、Focus、あるいはPoint of Concentration(POC)が大切にされています。プレイヤーは、ゲームの中心にある具体的な課題に取り組みながら、身体や空間、仲間との関係を働かせます。

さらにスポーリン自身の「GIVE & TAKE」というゲームでは、二組のプレイヤーがそれぞれ別の会話を続けながら、もう一方の組の様子にも耳を傾けます。一方が前面に出るときはもう一方がフォーカスを譲り、時には逆に、観客の注意を自分たちの組へ向けるように働きかける。誰が何をしていて、舞台上のどこに注目が集まっているのかを、演者たちが互いに感じ取りながら扱っていくゲームです。

帽子ゲームとGIVE & TAKEは、課題も構造も異なります。ただ、演じながら別のことに注意を払うこと、相手の動きやその場の変化に気づくこと、そこで受け取った情報を次の行動に生かすことには、興味深い接点があります。

キースのBeing Thereからは、いまの相手や出来事へ注意を向ける働きが見えます。スポーリンのFocusやGIVE & TAKEからは、その注意が仲間とのあいだで受け渡され、観客が何を見るかにも関わっていくことが見えます。異なる実践を重ねて考えることで、舞台上の『見る・聞く』が、個人の集中から共演者たちの共有する働きへと広がっていくのです。

その理解が、実際のアンサンブルでどう生きるのか

―― チャーナ・ハルパーン『Art by Committee』の事例

舞台上で相手やその場の変化に気づくと、次には、それをどう受け取るかが関わってきます。共演者の言葉や動きによって自分も影響を受け、そこから新しい応答が生まれる。そうした往復が、人物の関係や作品の展開を動かしていきます。

たとえば、自分には予想外だった身体の動きや台詞が、共演者から差し出されることがあります。別のプレイヤーがそれを見て、人物の気持ちの変化として受け取ることもあれば、その場の出来事として扱い、後の場面へつながる素材にすることもあるでしょう。どのような意味が生まれるかは、オファーを出した人だけでは決まりません。それを受けた人の反応と、さらにその反応を受け取る仲間たちの働きが重なっていきます。

チャーナ・ハルパーンは『Art by Committee』で、The Reckoningというチームの上演を取り上げています。彼女によれば、このチームでは、シーンとシーンの切り替えにあたるエディットそのものが新しいアイデアを生み、前に登場したものを変化させながら、後の作品へ結びつけていきます。演者たちは、自分たちにもその場では理由が分からないような働きかけであっても、仲間が始めたことに応じていくのです。

ハルパーンは、あるプレイヤーが不可解に見える動きや奇妙な音を出し始めても、チームがその行為を大切に受け取ると説明しています。そこで生まれたものが仲間たちの共有する素材となり、記憶され、後で作品の中で重要な役割を持つものへ育っていく。彼女が語るこの様子からは、その瞬間には全体像が分からなくても、共演者同士の応答によって表現が作品の一部になっていく過程が見えてきます。

こうした働きには、Justification(正当化)、Support(支えること)、Agreement(合意)、Being Affected(影響を受けること)など、異なる名前で語られてきた技術や姿勢が関わっています。相手がしたことを受け、その意味を舞台上で確かなものにし、自分も変わりながら次の働きかけを返していく。

ハルパーンは同時に、自分の内側のアイデアだけを追い、不可解な行動の意味づけを仲間に一方的に引き受けさせることの負担にも触れています。互いの表現を支えるということには、自分が周囲を見て、他の人の表現に責任を持って関わることも含まれます。

アンサンブルの技術は、受け取った一つの発想を生かすところから、作品全体を扱う判断へも広がっていきます。ある人物の反応を深めるために間を置くのか、別の人物へ焦点を移すのか。前の場面で見つかった関係や出来事を、後の場面でどう育てるのか。観客がすでに知っていることと、まだ見ていないことを、どのような順序で見せるのか。

ハルパーンがHaroldの上演について述べる「Follow the Focus of the Scene」は、最初に生まれた人物関係や物語の焦点を、その後の展開でも大切に追うという働きを指します。これはスポーリンのゲームで扱うFocusと同じ技法ではありませんが、場面や作品の中で、いま何が大切なのかを見極めるという点で考察を深めてくれます。

ここまでの比較を振り返ると、役や状況に根ざした発想、舞台上の現在への注意、仲間と観客のフォーカス、相手の表現を受けて作品を育てる働きは、実際のアンサンブルの中で互いに関わり合っています。そこでは、身につけた技術が、相手や状況に応じて選ばれ、組み合わされ、その場にしかない表現として働いていきます。日本インプロアーツが大切にする技芸(アーツ)も、こうした実践を重ねる中で深まり続けるものです。

広く深い探究から、インプロのロードマップへ

日本インプロアーツでは、こうした源流間の比較やアンサンブルへの考察に加え、長年にわたるさまざまな稽古、公演、ワークショップ、書籍・映像の読解を通して、数多くの考え方と技術の関係を探ってきました。

そこには、各源流が大切にしてきたこと、異なる形式で育った実践、後の世代による発展、実際の場で確かめてきた働きが重なっています。その広く深い蓄積を、学ぶ人が自分の身体で経験し、行き来しながら探究できる道筋として編んだものが、アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)です。

このロードマップには、ヴァイオラ・スポーリンの哲学と実践に根ざす「大地のインプロ」、デル・クローズの哲学と実践に根ざす「海原のインプロ」、キース・ジョンストンの哲学と実践に根ざす「天空のインプロ」という三つの主要な道があります。大地では空間や身体、相手と共有する場への働きかけを、海原では感情や関係性、その奥にある人間への洞察を、天空では未知へ踏み出し、人物や出来事を物語へ育てることを探究します。

それぞれに強く参照する源流はありながらも、学びは一つの源流に限られません。道を行き来する中で、別の実践で培われた技術が新たな意味を持つこともあります。周囲には好奇心・探究心、演技術・演出論、脚本理論などの外郭領域があり、さらに未開・未踏の領域へと探究は広がっていきます。

冒険の始まりには、一人ひとりの遊び心に目を向ける「プレイフルネスの種火」と、仲間と出会い、さまざまなゲームを実際に楽しむ「冒険の広場」があります。そこで声や身体を使い、相手の言葉や動きを受け取り、ともに遊ぶことから、インプロの世界を自分自身の経験として知っていく。大地、海原、天空へ進んだ後にも、以前に取り組んだゲームへ戻ってみれば、新たに気づくことが生まれるでしょう。

このロードマップも、完成した一枚の図として固定するものではありません。新しい資料に出会い、仲間と実践を重ねる中で、それまで別々に理解していた技術のつながりが見えてくることがあります。反対に、同じだと思っていたものの違いが明確になることもあります。そうした発見を取り込みながら、学びの道筋自体も確かめ、育てていきます。

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日本インプロアーツでインプロを体験する

インプロの世界は、実際に身体を動かし、相手と関わり、仲間と場面をつくることで、見え方が変わっていきます。日本インプロアーツでは、気軽にさまざまなゲームを楽しめるワークショップから、テーマを深く扱う実践、さらに長い時間をかけた探究まで、関心や経験に応じて関わる機会を育てています。まず遊んでみることも、これまでの経験を別の視点から深めることもできます。

アドベンチャラス・インプロード™(冒険的即興道)の詳しい地図や学びの進め方は「日本インプロアーツの学びの体系」で紹介しています。現在参加できるワークショップについては、日程と募集状況をご確認ください。すぐには参加できない方も、公式LINEなどから次の開催情報に触れながら、興味のあるテーマを追っていくことができます。

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参考資料・関連論考

本文で参照した主な文献

ヴァイオラ・スポーリン『Improvisation for the Theater』— Spontaneity、Focusなどの基礎的な考え方

ヴァイオラ・スポーリン『Theater Games for the Classroom』— Focus/POC、GIVE & TAKE

キース・ジョンストン『Impro: Improvisation and the Theatre』— Spontaneityと初発の発想

キース・ジョンストン『Impro for Storytellers』— Making Things Happen、Being There

チャーナ・ハルパーン『Art by Committee: A Guide to Advanced Improvisation』— デルのThird Thoughtについての証言、The Reckoningとアンサンブル

あわせて読みたい関連書籍

チャーナ・ハルパーン/デル・クローズ/キム・“ハワード”・ジョンソン『Truth in Comedy: The Manual of Improvisation』— シカゴのロングフォームとアンサンブルを知るための関連資料

関連論考

へちゃっぷりん「サンタクロースならぬDel Closeからのプレゼント」(note、2024年12月24日)

『即興の知恵、その源泉』(1/5)―冷静と情熱のあいだ―(note、2025年7月19日)

関連ページ

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