『Impro for Storytellers』は、キース・ジョンストンが1999年に刊行したインプロ(即興演劇)の著作です。『Impro: Improvisation and the Theatre』に続く代表作で、Theatresports、観客からの提案、フィードバック、Spontaneity、物語づくり、Character、Serious Scenes、上演上のTechnical Stuffまで、インプロを観客の前で演劇として成立させるための広い領域を扱っています。
全16章、付録、ゲーム索引からなる本で、タイトルに「Storytellers」とありますが、物語の作り方だけを説明する本ではありません。プレイヤーがどう反応するか、人物や関係がどう動くか、観客とどう関わるか、どのようなゲームや手続きを使うか、何をフィードバックするかまで含めて、ジョンストンの実践が広く収められています。
日本インプロアーツでは、『Impro for Storytellers』を「キースの物語術の本」だけとして読むのではなく、彼がインプロをどのように教え、遊び、上演し、観客へ届けようとしたのかを見るための重要な原典として位置づけています。
どんな本なのか
出版社の目次では、次の16章で構成されています。
- Theatresports
- Audience Suggestions
- Trouble with Feedback
- Spontaneity
- Impro for Storyteller
- Making Things Happen
- Story Games
- Being There
- Some Filler Games
- Procedures
- Serious Scenes
- Character
- Miscellaneous Games
- Entertainment Games
- Technical Stuff
- Afterthoughts
このあとに、Fast-Food Stanislavsky Lists、Tilt Lists、Filler Games、ジョンストンが実際に与えたNotesなどの付録と、ゲーム索引が続きます。
この並びを見るだけでも、本書が「物語構造」の一冊ではないことが分かります。上演形式、観客、指導、Spontaneity、物語、人物、ゲーム、技術運用が同じ一冊の中で扱われています。
『Impro』との違い
『Impro』は、Status、Spontaneity、Narrative Skills、Masks and Tranceという四つの大きな領域から、ジョンストンの演劇観と訓練法を知る本です。
『Impro for Storytellers』では、その後に発展した実践が、より具体的な上演と指導の文脈へ広がります。TheatresportsやAudience Suggestionsから始まり、フィードバック、Story Games、Serious Scenes、Character、Technical Stuffへ進むため、「観客の前で何が起きるか」「ゲームや指示をどう使うか」「物語や人物をどう動かすか」がより前面に出ています。
二冊は「入門編と上級編」のような単純な階段ではありません。『Impro』にしか厚く書かれていないMasks and Tranceがあり、『Impro for Storytellers』にはTheatresportsや多数のゲーム、上演運用の厚みがあります。両方を読むと、ジョンストンの仕事の異なる面が見えてきます。
日本インプロアーツによる全体地図|16章をどう読むか
以下の四つのまとまりは、原著が公式に四部構成を採っているという意味ではありません。日本インプロアーツが、読解の入口として16章の関係を見やすくするために置く編集上の補助線です。
1|上演の場をつくる
第1章 Theatresports
第2章 Audience Suggestions
第4章 Spontaneity
冒頭では、インプロをどのような上演構造で行うか、観客とどう関わるか、フィードバックがプレイヤーへ何を起こすか、そしてSpontaneityをどう扱うかが並びます。
ここで重要なのは、技法を覚える前に「どんな場なら人が即興できるのか」という条件が扱われていることです。競争、観客参加、評価、指導は、プレイヤーを自由にも硬直にも向かわせます。ジョンストンは、その作用を観察しながら仕組みを組み立てています。
2|物語が動き始める
第5章 Impro for Storyteller
第7章 Story Games
第8章 Being There
このまとまりでは、物語を「先の筋を考えること」だけで捉えず、今ここで何かを起こし、それによって人物や関係や状況が動き、次が必要になる流れを扱います。
特に第6章 Making Things Happen は、日本インプロアーツがキース・ジョンストンを「挑戦と物語性」の側から読むうえで重要な章です。タイトルどおり、Sceneの中で実際に何かを起こすことへ焦点が移ります。
Story Gamesは、物語を説明するための理論だけでなく、実際に遊びながら物語の生成を経験するための実践群です。原著では、物語の考え方とゲームが分離されずに配置されています。
3|Sceneと人物を育てる
第9章 Some Filler Games
第10章 Procedures
第11章 Serious Scenes
第12章 Character
「Filler Games」という名称から軽い余白に見える部分も含め、ジョンストンの本ではゲームが上演と学習の両方に使われます。第10章 Proceduresでは、即興を始めたり動かしたりするための手続きを扱い、その後にSerious ScenesとCharacterが置かれます。
ここまで読むと、本書の射程が「面白いゲームをたくさん知ること」より広いことが分かります。人物として存在し、相手との関係を持ち、笑いだけに頼らないSceneをどう成立させるかまでが探究対象です。
4|Performanceを運用する
第13章 Miscellaneous Games
第14章 Entertainment Games
第15章 Technical Stuff
第16章 Afterthoughts
終盤には、さまざまなゲームに加え、実際の上演を支える技術的な問題が置かれています。
観客に見せるインプロは、アイデアや演技だけで成立するわけではありません。進行、舞台上の扱い、ゲームの選択、観客とのやり取りなど、Performanceとしての運用が必要になります。
本書の最後まで読むと、ジョンストンにとってインプロが、教室のコミュニケーション練習だけではなく、観客と時間を共有する劇場実践だったことが見えやすくなります。
Making Things Happenは、なぜ重要なのか
『Impro for Storytellers』を読むとき、日本インプロアーツが特に重視している章の一つがMaking Things Happenです。
ジョンストンの教えは、Spontaneityや「Be Average」のような言葉から紹介されることがあります。そうした教えは、過剰な自己検閲や「よいアイデアを出さなければ」という力みをゆるめるときに働きます。
Making Things Happenは、その先で、Sceneに参加し続けることへ視線を移します。
人物が何かをする。
相手がそれを受ける。
相手や状況から反応が返る。
関係や現在が変わる。
その変わった現在から、次の行為が生まれる。
日本インプロアーツでは、こうした動きを、ジョンストンの仕事を「気負わないための教え」で終わらせず、演劇へ戻して読む重要な入口と考えています。
ただし、この段落の整理は日本インプロアーツによる読解です。原著の多様な例や用語を、日本インプロアーツ独自の一つの公式へ置き換えるものではありません。Making Things Happenの詳細は、専用記事で原著の章に沿ってさらに扱います。
ゲーム集として読むと、何を見落とすか
『Impro for Storytellers』には大量のゲームや手続きが載っています。そのため、ゲームのアイデアを探す資料としても使えます。
一方、ゲーム名とルールだけを切り出すと、ジョンストンが「なぜそのゲームを使ったのか」が見えにくくなります。
同じゲームでも、自己検閲をゆるめたいのか、相手から影響を受けることを扱いたいのか、Storyを動かしたいのか、観客との関係を変えたいのかで、指導上の意味は変わります。
日本インプロアーツでは、ゲームを固定された正解手順としてではなく、ある経験や働きを前景化し、観察し、試すための実践環境として読みます。この考え方は、本書をゲーム索引として消費せず、ジョンストンの教授法まで読むための重要な補助線になります。
フィードバックと指導法も、本書の中心にある
第3章がTrouble with Feedbackであることは、この本を理解するうえで重要です。
インプロでは、指導者が「正しいこと」をたくさん説明すれば、それだけ学習が進むとは限りません。評価されている感覚が強くなると、プレイヤーは現在の相手や状況よりも、「先生が何を望んでいるか」を探し始めることがあります。
ジョンストンのゲームや逆説的な指示は、知識を渡すだけでなく、プレイヤーの注意や行動に何が起きるかを変えるために使われます。
そのため、本書はプレイヤーだけでなく、インプロを教える人、ワークショップを設計する人、フィードバックの作用を考えたい人にとっても重要な資料です。
「Storytellers」というタイトルを狭く読まない
タイトルから、Narrative Improvだけを扱う本だと想像するかもしれません。
実際には、Theatresports、Audience Suggestions、Feedback、Spontaneity、Serious Scenes、Character、Entertainment Games、Technical Stuffまで含まれています。
つまり「storyteller」は、完成した筋書きを上手に語る人だけを指す読み方では足りません。ジョンストンの本では、相手、観客、出来事、ゲーム、人物との相互作用の中で、まだ決まっていない次を生み出す実践全体とStorytellingが結びついています。
日本インプロアーツでは、この広い射程を保ったまま本書を読みます。
この本を読むときの注意|短い指導語を普遍ルールにしない
ジョンストンの文章には、短く強い言葉、逆説、皮肉、極端に見える指示が多く登場します。
その一文だけを抜き出して「キースは常にこう教えた」とすると、原著の実践文脈が失われます。
誰に対して、どの場面で、何を変えるためにその言葉が使われたのか。
その指示を使ったあと、プレイヤーに何が起きたのか。
別の状態の人には、同じ言葉がどう働くのか。
こうした文脈まで見ると、ジョンストンの教えは教義の一覧よりも、現場で人と場を観察しながら使う介入として読みやすくなります。
日本インプロアーツの読解ガイドも、原著の代替ではなく、この文脈を読み落とさないための補助線として位置づけています。
誰に向いている本か
『Impro for Storytellers』は、次のような関心を持つ人に特に情報量の多い本です。
- キース・ジョンストンのインプロを原著から知りたい人
- Theatresportsやジョンストン系のゲームを、背景ごと理解したい人
- StoryやNarrativeを「Plotを考えること」以外の角度から探究したい人
- Sceneで実際に何かを起こすこと、人物や関係を動かすことを考えたい人
- インプロのフィードバックや指導法を考えたい人
- ゲームを覚えるだけでなく、なぜそのゲームを使うのかを理解したい人
- 観客の前でインプロをPerformanceとして成立させたい人
すべてを順番に読まなければ価値がない本でもありません。関心のある章から入り、人物ページや概念記事と往復しながら読むこともできます。
よくある質問
『Impro』を先に読まないと理解できませんか?
『Impro for Storytellers』は独立した本として読めます。一方、『Impro』にあるStatus、Spontaneity、Narrative Skills、Masks and Tranceを先に知っていると、ジョンストンの長期的な探究のつながりは見えやすくなります。二冊は上下関係ではなく、異なる領域を厚く持つ二つの主要著作として読むのが適切です。
この本はインプロゲーム集ですか?
多数のゲーム、Procedures、付録、ゲーム索引があり、ゲームの参照資料としても使えます。ただし、Theatresports、観客、Feedback、Spontaneity、Story、Serious Scenes、Character、Technical Stuffまで含むため、ゲーム集だけに分類すると本書のかなりの部分を落とします。
Narrative Improvの専門書ですか?
StoryとNarrativeは中心テーマの一つですが、本書はNarrativeだけを独立して扱う専門書ではありません。短いゲーム、Theatresports、Serious Scenes、Character、観客との関係なども扱います。ジョンストンのPerformance Improv全体を理解するための主要著作の一つです。
原著を読まずに要約だけで学べますか?
要約や読解ガイドは、全体地図や論点をつかむ助けになります。ただし、ジョンストンの文章には、具体例、逆説、皮肉、指導の文脈、ゲームの前後で起きたことが含まれています。日本インプロアーツでは、読解ガイドを原著の代替ではなく、原著へ戻るための補助線として扱います。
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主な参考資料
Keith Johnstone, Impro for Storytellers, Routledge, 1999.
Keith Johnstone, Impro: Improvisation and the Theatre.
Routledge『Impro for Storytellers』書誌・目次情報。