前回の記事では、Good Nature について紹介しました。
『非認知能力を育む「即興(インプロ)の知恵」』では、Good Nature を「本来の良さや可能性」として扱っています。ただし、それは単に「いい人」という意味でも、最初から完成された変わらない本質という意味でもありません。
この記事では、その考え方を、読者に近い言葉として「その人らしさ」と呼んでみます。
ここでいう「その人らしさ」は、ただの個性や、いつも変わらない性格のことではありません。その人の中にあるよさや可能性が、他者との関わりの中で表れてくることを指しています。
では、その人らしさは、どのように表れてくるのでしょうか。
本書で扱うインプロの視点から見ると、それは一人で考えているだけで自然に見つかるものではありません。遊び心と尊重に支えられながら、実際に他者とインプロを経験していく中で、だんだん見えやすくなっていきます。
このページの目次
🌱 その人らしさは、関わりの中で見えてくる
私たちは日常の中で、つい人を固定された印象で見てしまうことがあります。
明るい人、静かな人、積極的な人、慎重な人。できる人、苦手そうな人、向いている人、向いていない人。
もちろん、そうした印象がまったく無意味なわけではありません。けれど、それだけで人を見切ってしまうと、その人の中にまだ見えていない一面を見落としてしまうことがあります。
インプロでは、他者とのやり取りの中で、普段とは違う反応が表れることがあります。
相手から出てきた表現を受け取ったとき、自分でも予想していなかった言葉や動きが出てくることがあります。誰かの反応に影響されて、いつもなら選ばない関わり方をしてみることもあります。
そのとき表れるのは、無理につくった別人の姿ではありません。
むしろ、普段の評価や役割の中では見えにくくなっていた、その人らしい反応や感性です。
その人らしさは、一人の内側に閉じたものではなく、人との関わりの中で姿を見せるものでもあります。
🎭 遊び心と尊重が、体験を支える
その人らしさが表れてくるためには、ただ「何でもいいからやってください」と言えばよいわけではありません。
そこで大切になるのが、遊び心と尊重です。
遊び心があると、目の前で起きていることに関わりやすくなります。予定外の反応が出てきたときにも、「ここから何が生まれるだろう」と受け取ってみることができます。
うまくやろうとしすぎると、人は固くなります。正解を探すことに意識が向きすぎると、自分の中に起きている反応や、相手から出てきた表現を受け取りにくくなります。
遊び心は、その固さをゆるめてくれます。
一方で、遊び心だけでは、出てきたものが軽く流れてしまうこともあります。
誰かの表現をただ面白がるだけで終わらせないこと。相手から出てきた言葉や動き、表情や沈黙を雑に扱わないこと。自分自身の感情や反応にも、丁寧に気づくこと。
そこに、尊重が関わってきます。
尊重があるから、遊び心によって動き出したものが、次の関わりにつながっていきます。遊び心と尊重が一緒にあることで、インプロの体験は、ただ軽いだけでも、ただ慎重なだけでもないものになっていきます。
🤲 他者と経験するからこそ、表れるものがある
その人らしさは、頭の中で考えているだけでは見えにくいものです。
自分では「自分はこういう人だ」と思っていても、他者との関わりの中で、思いがけない一面が表れることがあります。
相手の表現を受け取ったことで、自分の中から新しい反応が出てくる。自分が差し出したものを誰かが大切に扱ってくれたことで、それまで出しにくかった表現が出しやすくなる。
そうしたやり取りの中で、自分でも気づいていなかった一面に気づくことがあります。
また、自分だけでなく、相手の見え方も変わっていきます。
普段は静かに見えていた人が、ふとした瞬間に大切な反応を返すことがあります。迷っているように見えた人が、誰かの表現を受けて動き出すこともあります。
インプロには、そうした瞬間があります。
他者と共に経験するからこそ、一人では気づきにくかった反応や感性にふれることがあります。自分の中にあるものも、相手の中にあるものも、やり取りの中で少しずつ姿を変えながら表れてきます。
そこに、インプロ体験の大切な意味があります。
この本で紹介していること
『非認知能力を育む「即興(インプロ)の知恵」』では、Good Nature を、へっちゃらインプロの中心にある大切な考え方として紹介しています。
それは、人を早く決めつけず、その人の反応や関わりの中に表れるよさや可能性に目を向けるまなざしです。
この記事では、それを「その人らしさ」として見てきました。
ただし、その人らしさは、固定された性格のことではありません。遊び心と尊重に支えられたインプロ体験の中で、他者と関わりながら表れ、磨かれ、育まれていくものです。
そのため、インプロは、ただ楽しくゲームをするだけのものではありません。
相手から出てきた表現を受け取り、自分の反応に気づき、予定外の展開に関わりながら、他者と共に流れをつくっていく。その体験の中で、普段は見えにくかった一面が表れてくることがあります。
次の記事では、インプロを、身体だけでも、関係性だけでも、物語だけでもない、総合的な経験機会として見ていきます。
インプロの知恵を、さらに楽しむ
書籍『非認知能力を育む「即興(インプロ)の知恵」』では、この記事で紹介したテーマを、さまざまな考え方や実践とのつながりの中でさらに深く探究しています。